【医師監修】大人の発達障害の基礎知識：特徴・診断・支援までわかりやすく解説

発達障害は、生まれつきの脳の働きの違いによって、社会生活や学習、コミュニケーションにさまざまな影響が出る状態を指します。近年、発達障害への理解が進み、子どもだけでなく大人にも診断されるケースが増えています。

発達障害は一つの病気というより、複数の特性や症状の総称であり、本人の困りごとや生活への影響は人それぞれ異なります。そのため、診断や支援も個別に対応されることが重要です。

代表的な発達障害には、「注意欠如・多動症（ADHD）」「自閉スペクトラム症（ASD）」などがあります。これらの障害は、知的能力には必ずしも影響しませんが、集中力の問題や社会的なやりとりの難しさなど、日常生活にさまざまな困難をもたらすことがあります。

発達障害は「障害」としての側面だけでなく、独自の感性や能力を持つ「個性」として捉え、本人の強みを活かしながら支援していく考え方も大切です。

ASD（自閉スペクトラム症）は、社会的なコミュニケーションや対人関係の難しさ、興味や行動のパターンに特徴がある発達障害の一つです。名前にある「スペクトラム（連続体）」は、その症状や程度が人によって大きく異なることを示しています。

社会的コミュニケーションの困難

• 相手の表情や気持ちを読み取りづらい
• 言葉の裏の意味やニュアンスを理解しにくい
• 会話のキャッチボールが苦手で、一方的になりがち

対人関係の難しさ

• 友人関係を築きにくい
• 他人と距離感をうまく取れない
• 集団行動が苦手で孤立しやすい

狭い興味やこだわり行動

• 特定の物事に強い関心を持ち、集中する
• 日常のルールや習慣の変更に強い抵抗感を示す
• 繰り返しの動作や行動を好む

ASDの症状は、幼少期から現れることが多いですが、軽度の場合は気づかれにくく、成人してから診断されることもあります。適切な支援や環境調整により、本人の生活の質を高めることが可能です。

発達障害の診断は専門的な知識と経験を持つ医師や心理士が行います。診断には以下のような段階があります。

1. 問診・面談
   本人や家族からの話をじっくり聴きます。生活の様子、困っていること、過去の発達歴や健康状態などを詳しく確認します。
2. 行動観察
   診察室での行動やコミュニケーションの様子を観察します。特に注意力や対人スキルの特徴、こだわり行動の有無などをチェックします。
3. 発達検査・心理検査
   知能検査や発達検査、注意力や社会性を評価する専門的なテストを実施します。これにより、症状の程度や特徴を数値や客観的なデータで把握します。
4. 他の疾患との鑑別
   身体的な疾患や精神疾患が症状の原因となっていないかを確認します。例えば、甲状腺機能の異常やうつ病などが類似の症状を引き起こすこともあります。
5. 診断の確定と説明
   診断が確定したら、本人と家族に対してわかりやすく説明し、今後の支援や治療計画について話し合います。

診断は単なるラベル付けではなく、その人の生活をよりよくするためのスタートです。早期に適切な診断と支援を受けることで、発達障害のある人が持つ力を最大限に引き出すことが可能になります。

発達障害は幼少期から症状が現れることが多いですが、そのサインはさまざまで、一見すると個性や性格の違いと見分けにくい場合もあります。早期発見のために、以下のような特徴に注意が必要です。

注意欠如・多動症（ADHD）のサイン

• 落ち着きがなく、じっとしていられない
• 注意力が続かず、忘れ物やミスが多い
• 指示を最後まで聞けず、課題を途中で投げ出すことがある
• 衝動的に行動しやすい

自閉スペクトラム症（ASD）のサイン

• 言葉の発達が遅れる、または言葉の使い方が独特
• 他者との目線を合わせたり、コミュニケーションが苦手
• 特定の物事に強いこだわりを持つ
• 感覚過敏（音や光、触覚に敏感）や鈍感な場合がある

その他のサイン

• 運動の発達が遅れている（手先が不器用など）
• 感情のコントロールが難しく、急に癇癪を起こす
• 社交場面でのトラブルが多い

これらのサインが見られた場合でも、必ずしも発達障害とは限りません。ただし、周囲の大人が気づき、専門機関での相談や検査を早めに受けることが、子どもの成長にとって大切です。

発達障害を持つ方は、日常生活の様々な場面で困難を感じることがあります。これは症状の特性によるものであり、決して本人の努力不足ではありません。具体的には以下のような影響があります。

対人関係の難しさ

言葉の行き違いや感情表現のズレから、友人や家族、職場の人間関係でトラブルを起こしやすいことがあります。また、コミュニケーションが苦手なために孤立感を感じやすく、精神的な負担が大きくなりがちです。

自己管理の難しさ

時間の管理や計画を立てることが苦手なため、生活リズムが乱れやすく、食事や睡眠の不規則さにつながることもあります。これにより体調不良やストレスが増大することも少なくありません。

感覚過敏によるストレス

音や光、触感に敏感な方は、日常の環境刺激が強すぎて疲弊してしまうことがあります。たとえば、騒がしい場所や混雑した公共交通機関を避けたくなる場合もあります。

生活の質の低下

これらの困難が積み重なると、自己肯定感が低下し、うつや不安症状が現れることもあります。適切な支援や理解がないと、生活全般の質が大きく損なわれる恐れがあります。

発達障害は学習や仕事においても独特の困難を引き起こすことがあります。特に注意欠如やコミュニケーションの問題は、学校生活や職場でのパフォーマンスに影響を与えます。

学習面での課題

集中力が続かず、授業の内容が理解しづらい、宿題や課題の提出が遅れがちになることがあります。暗記や計画的な学習が苦手な場合も多く、特別な支援や配慮が必要です。

職場での課題

仕事の指示を理解したり、複数のタスクを効率よくこなすことが難しいことがあります。また、人間関係のトラブルや職場の環境変化に適応するストレスも大きいです。

これにより、転職や退職を繰り返す場合も少なくありません。

支援や工夫の重要性

適切な環境調整（例：静かな作業場所の確保、明確な指示書の作成）や、周囲の理解があれば、困難を軽減し、能力を最大限に発揮することが可能です。早期の診断と専門的な支援を受けることが成功の鍵となります。

発達障害の方が特に苦手とするのが、人間関係やコミュニケーションです。言葉の裏にある微妙なニュアンスや表情、声のトーンを読み取ることが難しく、誤解が生じやすい傾向があります。

たとえば、冗談や皮肉を文字通りに受け取ってしまう、相手の気持ちに気づきにくい、適切なタイミングでの会話が難しいなどの特徴があります。このため、職場や学校、家庭で孤立感を感じることも多いのです。

また、感情のコントロールが苦手で、過剰に不安になったり、逆に感情を抑え込んでしまうこともあります。これが周囲とのトラブルやストレスの原因になることもあるため、本人だけでなく周囲の理解と配慮が不可欠です。

近年では、コミュニケーションスキルを学ぶトレーニングや、ソーシャルスキルトレーニング（SST）が有効な支援策として注目されています。専門家のサポートを受けながら、少しずつ対人関係の力をつけていくことが可能です。

発達障害そのものを「治す」薬はまだありませんが、症状を緩和し、生活の質を改善するために薬物療法が用いられることがあります。

特にADHDの多動や注意欠如に対しては、投薬で改善が期待でき、集中力の改善や衝動性の抑制に役立ちます。また、不安やうつ症状が強い場合には抗うつ薬や抗不安薬が処方されることもあります。

薬物療法は必ず医師の診断と管理のもとで行われ、症状や体質に合わせて慎重に調整されます。副作用のリスクもあるため、患者さん自身が服薬の効果や体調の変化をよく観察することが重要です。

薬物療法は単独で用いることもありますが、多くの場合は心理療法や生活指導、環境調整と組み合わせて実施され、総合的に症状改善を目指します。

発達障害の支援において、心理療法や行動療法はとても重要な役割を担っています。これらの療法は、本人が抱える困難に対処するスキルを身につけたり、日常生活の質を向上させることを目的としています。

たとえば、認知行動療法（CBT）は、自分の思考や行動のパターンを理解し、問題解決や感情のコントロール方法を学ぶ手法です。ADHDやASDの方が感じやすい不安やストレスの軽減に効果が期待できます。

また、ソーシャルスキルトレーニング（SST）は、対人コミュニケーションの基礎を練習する療法で、社会的なやり取りを円滑にするための具体的なスキルを身につけられます。

さらに行動療法では、望ましい行動を増やし、問題行動を減らすための環境づくりや報酬システムを活用することもあります。専門家が本人や家族と連携しながら実施し、日常生活での変化を促します。

これらの療法は一人ひとりの特性やニーズに合わせてカスタマイズされるため、継続的な取り組みが必要です。心療内科や発達支援センター、心理カウンセラーなど専門機関の力を借りて進めていくことが効果的です。

発達障害のある方が暮らしやすい環境を整えることは、症状の軽減や社会参加を促すうえで非常に重要です。環境調整は、学校や職場、家庭それぞれの場面で行われます。

学校では、個別の学習計画（IEP）を作成し、教室の座席配置や課題の工夫、休憩時間の確保などが行われます。職場では、仕事内容の調整や業務の細分化、コミュニケーション方法の改善が支援されることがあります。

また、自治体や国の支援制度を活用することも大切です。発達障害者支援センターや福祉サービス、障害者手帳の取得による各種優遇措置など、利用可能な支援を知り、活用することで生活の質が向上します。

さらに、家族への支援や相談窓口も充実しているため、一人で抱え込まず、積極的に支援を受ける姿勢が求められます。

環境調整や支援制度は、本人の状態や年齢、ライフステージに応じて変化していくため、定期的に見直しながら柔軟に対応していくことが望ましいです。

発達障害のある方を支えるうえで、家族や職場の理解と協力は非常に大切です。本人が安心して過ごせる環境づくりや適切なサポートが、日常生活の質を大きく左右します。

まず、家族が知っておくべきことは「発達障害は本人の性格や努力不足ではなく、脳の特性によるものである」という理解です。偏見や誤解を持たず、受け入れる姿勢が信頼関係を築きます。

コミュニケーションでは、具体的でわかりやすい言葉遣いを心がけ、繰り返し説明することも効果的です。感情的な対立を避け、冷静で温かい態度で接することが望まれます。

職場でのサポートは、仕事内容の調整や適切な休憩時間の確保、業務指示の工夫などが挙げられます。上司や同僚が発達障害について理解を深め、本人の特性に合わせた環境作りを支援することが重要です。

また、本人の得意分野を活かし、自尊心を育むことも大切です。支援を受けながら自己肯定感を高め、無理なく成長できるようなサポート体制を整えましょう。

Q1: 発達障害は一生治らないのですか？
A: 発達障害は生涯にわたる特性ですが、適切な支援や環境調整により、困難を軽減し、よりよい生活を送ることが可能です。

Q2: 診断は何歳でも受けられますか？
A: はい。子どもだけでなく大人になってから診断を受けるケースも増えています。早めの相談が大切です。

Q3: 薬は必ず必要ですか？
A: 薬物療法は症状や本人の状態によって選択されます。必ずしも全員に必要なわけではなく、カウンセリングや環境調整が中心の場合もあります。

Q4: 家族ができる支援は何がありますか？
A: 理解と受容、具体的な声かけ、日常生活の工夫などが基本です。専門家に相談しながらサポート計画を立てると良いでしょう。

Q5: 職場で発達障害を伝えるべきですか？
A: 必須ではありませんが、理解ある職場環境を作るためにはオープンにすることが役立つ場合があります。状況に応じて判断してください。

こんな症状が続くなら早めに相談を

• 日常生活や仕事、学業での困難が増えている
• 集中力の欠如や多動・衝動的な行動が目立つ
• 人間関係でトラブルが絶えず、孤立感を感じる
• 感情のコントロールが難しく、イライラや落ち込みが強い
• 自分自身や家族、周囲の人が変化に気づいて心配している
• 自分だけでは対処が難しいと感じている

これらの症状は、放置すると精神的な負担が大きくなり、うつ病や不安障害など二次的な問題を引き起こすこともあります。できるだけ早く専門医のアドバイスを受け、適切な支援や治療を始めることが重要です。

受診前に知っておきたいポイント

• 困っている具体的な症状や状況をメモする
• いつ頃から症状が始まったか、変化の経緯を振り返る
• これまでに受けた診断や治療、服用している薬があればまとめる
• 家族や職場など周囲のサポート状況を確認する
• 自分の希望や不安についても整理しておく

これらを準備しておくことで、医師に伝えやすく、より適切な診断や治療計画を立てやすくなります。また、受診が初めてで緊張する方も多いですが、女性医師や女性スタッフが対応するクリニックも多く、安心して相談できる環境が整っています。気軽に一歩を踏み出してみてください。