毎年、夏になると続く猛暑。身体の不調はもちろんのこと、「なんとなく気分が落ち込む」「イライラしやすい」「やる気が出ない」といった心の変化を感じている方も少なくありません。特にここ数年は、記録的な暑さが続くことも多く、メンタルヘルスへの影響が深刻化しやすい傾向にあります。
本記事では、猛暑が心に与える影響やそのメカニズムを、医師による見解を交えて解説し、今日から実践できる夏のメンタルヘルス対策についてご紹介します。
暑さと心の不調の関係
暑い日が続くと、体力が奪われるだけでなく、自律神経のバランスが崩れやすくなります。この自律神経の乱れが、精神面にもさまざまな影響を及ぼします。
自律神経とメンタルの関係
自律神経は、体温調節・血圧・消化・睡眠など、私たちの生命活動を無意識にコントロールしている神経です。特に暑さの中では、体温を下げるために交感神経が優位になりやすく、緊張状態が続きます。その結果、次のような精神的な症状が現れることがあります。
- 不安感や焦燥感が強まる
- イライラしやすくなる
- 気分が落ち込みやすくなる
- 不眠や中途覚醒が増える
睡眠の質が悪化することで心にも影響
夜間の気温が下がらない「熱帯夜」が続くと、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めてしまったりすることが増えます。睡眠の質が悪くなると、脳の疲労回復が十分にできず、情緒が不安定になったり、ストレスを受けやすくなったりする要因にもなります。
夏に悪化しやすい心の病気とは
医療機関を訪れる患者さんの中には、夏にうつ症状が強まる方や、気分の波が不安定になる方が一定数いらっしゃいます。代表的な例としては、以下のような症状があります。
夏季うつ(季節性情動障害)
季節性情動障害(SAD)は、主に冬場に多く見られる病気ですが、夏に悪化するタイプも存在します。夏季うつでは、以下のような特徴が見られます。
- 食欲不振
- 不眠
- 不安感の増加
- 落ち着きのなさ
特に気温や湿度の高さに敏感な方や、ストレスに弱い傾向のある方に多いとされています。
自律神経失調症
夏は、エアコンによる室内外の温度差や、生活リズムの乱れから自律神経が乱れやすい季節です。その結果、動悸・めまい・倦怠感といった身体症状に加えて、気分の落ち込みや不安感が生じることもあります。
暑さから心を守るためのセルフケア
猛暑による心身の負担を和らげるためには、日常生活の中で意識的にセルフケアを行うことが重要です。以下に、今日から取り入れられる対策をご紹介します。
1. 睡眠環境を整える
- エアコンや扇風機を上手に使い、室温は26〜28度程度に保つ
- 遮光カーテンやアイマスクで光を遮断する
- 就寝1時間前はスマートフォンの使用を控え、脳をリラックスさせる
2. 食事で栄養バランスを整える
夏バテで食欲が落ちる時期こそ、ビタミンやミネラル、たんぱく質を意識した食事が必要です。特に以下の栄養素が、心の安定に関わっています。
- ビタミンB群:疲労回復・神経の働きを助ける
- マグネシウム:ストレス軽減やリラックス効果
- トリプトファン(大豆製品・乳製品などに含まれる):セロトニンの原料
3. 体内リズムを整える
生活リズムの乱れは、メンタルに大きな影響を及ぼします。
- 朝起きたらカーテンを開けて日光を浴びる
- 毎日なるべく同じ時間に起きる・寝る習慣をつける
- 外出できる日は、短時間でも散歩をする
4. 心をリフレッシュする時間をつくる
ストレスは完全になくすことはできませんが、リラックスできる時間を持つことが、心の安定に繋がります。
- 冷房の効いた静かな場所で読書をする
- 冷たいハーブティーやアロマでリフレッシュ
- ゆったりとした音楽を聴く
- 家族や友人と他愛のない会話を楽しむ
症状が長引くときは医療機関へ
「毎日なんとなく気分が落ち込む」「何をするにもやる気が出ない」「眠れない日が続いている」などの症状が2週間以上続いている場合は、心や自律神経のバランスが崩れている可能性があります。
特に次のような状況に当てはまる方は、無理をせず、医療機関への相談を検討してください。
- 日常生活に支障が出てきている
- 身体症状(動悸、息苦しさ、胃腸の不調など)を伴う
- 「このままではダメだ」と焦る気持ちが強い
- 家族や職場の人間関係にも影響が出始めている
気になる症状があるときは、「心の問題」と軽く考えず、身体と同じように医療機関での受診を検討することが大切です。
まとめ
猛暑は、身体だけでなく心にも大きな負担をかけます。自律神経の乱れや睡眠不足が重なることで、気分が不安定になりやすく、慢性的な不調を感じる方が増える季節です。
日常生活の中でできるセルフケアを大切にしながらも、「つらい」「おかしい」と感じたときには、早めに医療機関へ相談することが、心身の健康を守る第一歩です。
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