責任ある立場で日々業務をこなしている管理職の方々の中には、「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝すっきり起きられない」といった、慢性的な睡眠の悩みを抱えている方が少なくありません。
年齢のせいと片づけてしまいがちですが、実は睡眠の質を下げている原因が、日中に感じているストレスや、そこから派生する自律神経の乱れ、さらには脳の「思考停止」状態と密接に関係していることがわかっています。
本記事では、医師による解説を交えながら、「なぜ管理職に睡眠トラブルが多いのか」、そして「どうすれば質のよい睡眠を取り戻せるのか」について詳しく解説します。
ストレスが交感神経を刺激し続ける
管理職の方は、プレイヤーとしての役割に加えて、部下の指導や部署全体のマネジメント、時には経営判断など、多くの責任を抱えています。
このような状況では、常に緊張状態が続きやすく、自律神経のうちの「交感神経」が活発に働いている状態になります。
自律神経とは?
自律神経は、私たちの体の働きを無意識に調整してくれる神経で、「交感神経」と「副交感神経」のバランスによって成り立っています。
- 交感神経:日中の活動時に働き、心拍数や血圧を上げる
- 副交感神経:休息や睡眠時に働き、体をリラックスさせる
強いストレスを感じると、交感神経が優位な状態が続いてしまい、夜になっても体が「戦闘モード」から切り替わらなくなります。
この結果、布団に入っても心が落ち着かず、眠れない・眠りが浅いといった状態に陥るのです。

夜になっても止まらない「思考の暴走」
日中の業務が終わった後も、頭の中では「今日の会議はどうだったか」「明日のプレゼンは大丈夫か」と、仕事のことがぐるぐると思い出されてしまうことはありませんか?
このように、考えが止まらず脳が興奮した状態では、入眠を妨げる要因になります。
これは医学的に「認知的覚醒」と呼ばれる状態で、脳が休む準備に入れないことで、寝つきの悪さや中途覚醒を引き起こします。
さらに、眠れないこと自体がまた不安になり、「また眠れなかったらどうしよう」と、不眠への恐怖がストレスとなって悪循環に陥るケースも多いのです。
「思考停止」という落とし穴
管理職の方の中には、「眠れないから朝がつらい」「集中できない」と感じながらも、日々の業務に追われてその不調を放置してしまうことがあります。
こうした状態が続くと、脳は一種の「思考停止」状態に陥りやすくなります。
- 判断力の低下
- 注意力・集中力の低下
- ミスの増加
などが現れ始めると、それがさらに業務上のトラブルを招き、またストレスが増す——という悪循環になります。
つまり、「眠れないこと」は単なる体の問題ではなく、メンタル面・仕事のパフォーマンスにも大きな影響を及ぼすということです。
睡眠トラブルを放置しないために:受診を検討するタイミング
次のような状態が1ヶ月以上続く場合は、医療機関に相談することをおすすめします。
- 眠っても疲れが取れない
- 毎日寝つきに時間がかかる(30分以上)
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝早くに目が覚めてそのまま眠れない
- 日中の集中力や気分に影響が出ている
睡眠の問題が慢性化すると、うつ病や自律神経失調症などの精神的な疾患に発展することもあります。
早めに医療機関を受診することで、薬を使わずに生活習慣やストレスマネジメントで改善できるケースも多くあります。

今日からできるセルフケアと生活習慣の見直し
医師のサポートとあわせて、日常生活でできる工夫も重要です。以下は、睡眠の質を改善するために有効とされる習慣です。
就寝前のリラックス習慣
- 湯船に浸かる(ぬるめのお湯で15分ほど)
- スマホやパソコンの使用を控える
- アロマや音楽で心を落ち着ける
日中の活動を見直す
- 朝の光を浴びて体内時計を整える
- 軽い運動(ウォーキングなど)を取り入れる
- カフェインやアルコールを控える
こうした小さな積み重ねが、副交感神経の働きを促し、睡眠のスイッチを自然に入れる力になります。
まとめ
管理職の方が抱える睡眠の問題には、ストレス・自律神経の乱れ・思考の暴走・思考停止状態といった要素が複雑に絡んでいます。
睡眠不足は、心身のパフォーマンスだけでなく、将来的な健康リスクにもつながるため、軽視せず、早めの対処が何より大切です。
「眠れないのは性格や年齢のせい」ではありません。
医療機関では、こうした睡眠のお悩みに対して、医学的な視点から原因を見極め、適切なサポートを提供しています。
少しでも「つらい」「おかしい」と感じたら、一人で抱え込まずに、ぜひ専門の医師にご相談ください。
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2025.08.27
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